不思議な午後
13時頃お目当てのレストラン(というかトラットリアとお店には書いてある)に行くとテーブルは40人くらい入れる店内は既に満席。外で待っている人もいる。これは出直した方がいいかな?と思いつつ店員に来店の旨を伝えると店長がやってきた。事情を説明すると取材OKとのことで借りの予約をしてきたのだが「昼飯は食るか?」と聞かれたので「ちょっと食べたけど・・・頂きます!」とこたえるとテーブルを一つ用意してくれた。久しぶりに美味しいものにありつける喜びで小腹がすいてきた。
僕の座った席の隣りには時同じくして入ってきた60くらいの体格のいい男性が座った。常連と見える。僕はこの店は初めてだったので、また、こういうシチューエションでは絶対イタリア人は見ず知らずの人でも会話を始めるのでおりをみて声を掛けることにした(人にも寄るが、こういうとき相手の方も隣人に対して興味があるがどうしようかな・・・と言うそぶりが伺える)。
このレストランにはよく来るのですか?と声をかけると「No,頻繁に 来るよ」と一般的にシャレのわかりそうな人柄がわかる答えが返ってきた。と、こんな感じでこのお店のことや料理のこと等を食べながら話しができた。この男性の話しでは、ここはミラノの中でも魚料理の一番上手い店の一つで店長夫婦はサルデーニャの出身でティレニア海で取れた魚を料理しているんだ、とか、俺はリヴォルの(トスカーナ州のピサの近くの港町)の出身で船乗りだったが今は近所で旅行代理店をしているんだだから日本のことも詳しいぞ、とか、トスカーナはいい所だ、フィレンツェもいいがルッカは今も城壁に囲まれていていい街だ・・・etc.である。というわけで今日の午後はかなりイタリア人ぽいことをして過ごしてしまった。
前菜に茹でたシラスのオリーブオイル掛け(オリーブオイルの芳しかったこと!)、ボンゴレ・フェラーチ(アサリ)のスパゲッティ(カタくなっていないアサリの肉が美味しかった)、コーヒー、男性の声で最期に食後酒としてリキュール「ミルト」を出してもらった(彼は僕にグラッパを進めたがそれを断ったからである)。ミルトは干したブルーベリー(或は、似ているが違う種類のコケモモ類か?)から作ったお酒でアルコール度30%の割には甘く飲みやすく美味しかった(この類いは僕には危険である)。
とこんな感じで店長にもこの常連さんにも手厚く持てなして頂きなかなか楽しい午後を過ごしてしまった。半分酔っぱらって家に帰ってきたのでまずは一休みとなってしまった(こりゃ仕事できん)。隣りの常連さんの一言はシンプルだがいかにもイタリア人を思わせ良くおぼえている:「食事って言うのは胃袋を豊にするだけでなく、頭も豊かにしいなきゃいかんのだよ」。ここまで言わせる常連になると店員も客の注文を無視して勝手に今日の旨いものを持ってくる。「注文と違うじゃん」と客。「えっ、そうだっけ?でもこれ旨いよ」という感じである。
店には新鮮な魚が並んでいる。漁師と思われる人もクーラーボックスをもってやってきた。ここはTrattoria del Pescatore、Duomoから見てRipamonti通りの始まる辺りから左に曲がる通りある「観光客の来ない(常連談)」お店である。