ーチェロは冬に作れー
と、イタリアの師匠たちに言われた。それは体を動かすから暖房利かさなくても暖かくなれるから、ということだそうで確かにその通りに思います。

横板を曲げるには写真の用な楕円形の“アイロン“を温めて行います。だいたい280℃くらいの温度になるのでこれだけでも結構なカロリーを発生します。僕が使っているベンディング・アイロンはミラノの製作学校の時にギター製作コースの生徒たちがデザンして鋳物屋に頼んでみんなで買うように作ってもらったもの。電熱器は200V仕様なので温まるのが早く(その分電力はかかるが)、アルミ合金で比熱がよく温度安定性が良いので今はこれをメインに使っています。

チェロ横板の厚さは約1.6mm、幅120~115mm程。曲げてゆくと板に歪みが出たりするので奇麗に整えながら曲げてゆくのは結構難しいのですが、だんだんそのときの材のクセをつかんで手が馴れていくようで作業を進めるごとに手早くなります。全部張り合わせた後はこんな感じ。

次に横板のフレームを補強するライニングを付けるためにつき板を作ります。僕は最近は好んでイタリアのヤナギ材を使っています。加工し易く曲げ易くしなやかな材です。
ブロックの材から切り出し突き板を作るのは1枚だけでは面倒くさい作業なのでまとめて何台か分やってしまいます。あまり考えずできる単純作業ですが、奇麗に作ってあると後の作業が楽になるので奇麗に作ります。

ライニングのつき板ができらこれをまたアイロンで曲げて楽器内側の表、裏板にくっ付くように張り合わせます。ライニングをくっつけると楽器のフレームがしっかりし、表裏の接着面積を増やすことができるという昔の人の考えた素晴らしい仕組みです。物理的に考えると、振動膜のある楽器の「枠」の構造は大変重要でこれをしっかり作っておくことは目に見えないが楽器の機能に大きく作用すると思います。例えば、ティンパニのチューニングをするときチューニングで皮を均等に張っていないと均等な振動を作れず音が安定しないことを考えてみましょう。
この辺の作業を将棋に例えるなら序盤戦、みなさんの興味を引くような作業ではないがこれをしっかりしておかないと終盤のおもしろい展開につながらないような気がします。