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【夏休み特別投稿】 弦楽器職人にどんな技術や知識が必要か?【その3 物理】


バイオリンのしくみを理解する
d0079867_0505277.jpg何でバイオリンは大きい音が出るの?
楽器を使って音を出すということは、楽器をコントロールしながら空気を振動させるという行為に他なりません。弦楽器の場合は弦を弾いたり、叩いたり、擦ったり(バイオリンの場合はこれ)して振動させその振動を駒を介して響体に伝え、その振動をもって空気を大きく振動させます。また、木の本体に塗装されたニスは空気に接するので木のままの状態から音響特性を変化させ、さらにバイオリンを美しく見せるため「光の戯れ」をうまく演出するアート技法です。
楽器が機能する物理現象を理解することは質の高い工芸品を製作するのに大切でこのことを知らないと単なる製品を作っていることに留まってしまうと思います。

力学
d0079867_050481.jpg楽器を構成する要素を理解するのに物理の基本である力学の基本や楽器に関わる用語、意味を知ることは大切です。
例えば、楽器になる木材にはよく振動する「しなやかさ(弾性)」のよい材料が必要になります。ではどうやってしなやかさを見極めるか?材質のしなやかさをあらわす物理量としてヤング(弾性)率というものがあります。ヤング率は材料の密度に反比例するので同じ形状なら軽い材料の方が楽器に向いている、というのは過去の楽器製作者たちが経験的に感じて来たことです。現代では超音波を使って材のヤング率を数値にして測定することができます。写真は弓の製作者ルッキが開発したヤング率を測定するルッキメーター、端子から超音波を発信してその伝達速度を測定しヤング率を算出できます。バイオリンや弓の材木に特化した形状の木材について測定し易く設計されています。理屈を知っていれば秋葉原でパーツを用意して自作することも可能です。

光学
d0079867_0552969.jpg何故に光学が?と思う方もいるかもしれませんが、きれいに塗装をして木や塗ったニスの色を効果的に見せることを考える時に必要な知識になります。楽器を見るとき、私たちは楽器の表面に当たった光がニスや木の地肌で反射してきた反射光を目の網膜で感知して情報を得ます。ですので、木の地肌にどんな色の光を反射させるのか、塗り重ねるニスの屈折率や反射率、透過率がどのようなものであるかを考えます。油絵の絵画技法でも同じ知識が要求されルネッサンスの時代から顔料や樹脂について研究されています。写真はA.P.Laurieの美術画法の本より、どのような顔料やメディウムが透明感を出すのか出さないのかを論じているイラストです。

音響学
d0079867_0593851.jpgいい音のする、弾き応えのある楽器を製作するには楽器に伝達する振動や空気の振動がどのようなものであるかを知ることは大切です。
アメリカの音響研究家はバイオリンから出る音や楽器の振動がどのような周波数の成分から構成されているかを研究してみんなが良いというバイオリンの条件を調査しています。現在ではこうした研究の成果が積み重なって評価を得ています。これらの結果が書かれた論文は英語で物理用語を用いて実験で得られたデータと併せて記されています。残念ながら日本には僕たち楽器製作家にこのような論文やレポートを翻訳してくれる教授や機関はありません。自分たちで読み解かなくてはいけないのです。
図はアメリカのバイオリン製作家であり音響学者であるHatchinsの論文からバイオリンの周波数特性を説明する図から。弦楽器の振動特性にはエアーモードとボディモードがあるのはよく知られたことでそれをどうコントロールするかが製作レベルで行なう「チューニング」になります。

データを分析する力
このように他人の研究成果や自分自身が残して来た製作のデータを分析したり、果たして本当なのか、ということを考えるとき論理的な思考が必要になります。
楽器から出てくるアウトプットの音は聞く演奏する人の主観によって評価されます。Aさんにとって良い音はBさんとってはそうでない場合もあります。それは科学的という解釈がむずかしいものですがそれを認めながら物理的に解析すること自分の期待した予想を照らし合わせながら考えます。科学的というよりは自分の中で完結するその人の理論(=思い込み)かも知れませんがそれがその製作者の楽器を形成していくのではないかと思います。
by shinop_milano | 2013-08-28 01:00 | 篠崎バイオリン工房

「ミラノ的ヴァイオリン製作の部屋」改め。埼玉に活動の場を移したヴァイオリン屋の徒然日記


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