チェロ作っています
地震関連で作業が遅れていたけどパーフリング(周辺部の象嵌)を入れています。
バイオリンやチェロの周辺にある「白黒の線」は、書いてある、と思っている方も多いようですがこれは白黒の線を、埋め込んで、作られています。
なぜそんな手間のかかることをするのかというのはよく話題になりますが、一般的には装飾的な美観のため(このように目で認識しやすい線があると実際の外形よりこちらを認識して全体的な外形を意識しやすくなります)とか、楽器を落とした時など楽器のふちに衝撃が加わった時に板にワレが広がるのを防ぐ実用的な目的のためとか言われています。けど、僕が考えるにもう一つ重要な意味があります。
それは、板の周辺部をくりぬいておくことで板を振動し易くしている、ということです。
板の振動は中央部での振幅が一番大きいことになりますが、そのように良く振動させるにはには固定されている周辺が柔軟にうごいてくれることが重要になります。なのでこの部分に「溝」を掘って意図的に薄くしているのです。
しかし、溝で局所的に薄くしただけでは振動のエネルギーがここでロスしてしまうので「埋めもの(=パーフリング)」を入れて振動のエネルジーを一番端まで伝えるようにしている、という訳です。パーフリングは板の表面に対して垂直に入れます。ですから振動することによって生じる板の水平方向の伸縮を妨げること無くパーフリング自体も柔軟に伸縮して板の一番端まで振動を伝えます。
このシステムを考えた人はほんとうにすごい!ポスト=ルネッサンス期の楽器製作者たちの知恵だと思います。しかし、この3番目の理由について論じる人は多くないです、少なくとも日本では聞いたことがないなぁ・・・
ということで、パーフリングは美観的、保護的な理由に加えて音響的にもとても重要な要素であります。どれくらい掘るか、材料に何を使うか、どの辺に配置するかはよく考えて上手に入れて施しておかなくてはいけません。
というわけで、丁寧に溝を掘って「埋めもの」を入れています。パーフリング材とこれを埋めて接着した後はこんな感じです。ここから周辺部の「えぐり」を整形して全体のアーチを作っていきます。
ここまで来ると楽しい作業が続くのでホッとする感じです。