今回のクレモナ・ヴァイオリン製作コンクール 感想
一番話題をさらっていたのは1位になったヴァイオリンの楽器でした。私が見る前に大方の製作家達(参加した人も、ただ見ただけの人も)はどうしてこの楽器が?という言葉を口にしていたので果たしてどんな楽器かと思って会場に足を運んだのですが、確かにぼくも見てびっくり。この楽器が受賞ですか〜!?と言うのが第一印象です。一言で言えば、換骨奪胎、か、アヴァンギャルドといえるかな?外観的なデザインはクレモナあるいはイタリア的なデザインセンスから言わせればまったく外れていて技術的な細部についてもそれほどレベルが高いとは思えずどのような点が評価されてこうなったのかおそらく多くの方は疑問を持ったに違いないです。しかしながら、もし僕がこの楽器を評価するとすれば(音は抜きとして)作者(フィンランド人)のデザイン的意図は見て取れて北欧的な雰囲気というか仕上げ感、ユニークさがあったように思えます。その点が審査員に評価されたとすればうなずける気もしますが、え、これでもいいの?というのがやはり正直な感想です。そう思うといかにもイタリアンな、というかクレモネーゼな楽器は今回は上位入賞には少なかったように思います。これからは個人の特徴を持たせたパーソナルモデルな楽器の時代かもしれません。そう思うとちょっと反省し、励まされたようにも思います。
他にも印象に残る楽器もありましたが細かい点は抜きに気になった点について。ヴァイオリンについては300台以上(多分)あった中でガット弦を張ってある楽器は2台だけでした(僕が見たところ)。その他は全部スチールもしくは化学繊維の弦で上位にいる楽器は数種類の弦に限定されます。Pirastro社のEvahPrazzi、Obrigato、Tomastik社のVisionなど。そしてヴィオラについては上位入賞のほぼ90%がEvahPrazziを張ってある楽器でありこれほどまでに弦の「トレンド」の影響があるのかと思った次第です。
この結果は演奏者審査員の好みにもよるかもしれません。実際楽器はそれを演奏者が持って、見て、弾いてみて、音を出してみた感じをもって自分に合うかどうかを判断する訳で演奏してみたときの感想は異なるでしょう。まして弦は音の「発信源(ジェネレータ)」でありそれが別種のものであればまったく異なる音の特徴になります。そう思うとコンクールに提出して賞を取った楽器が万人に良い楽器であるはずはないとおもいます。もしかして音の評価については楽器自身よりも弦の特徴が評価されたのかも?と言い切れなくもないと僕は思います。本当にユーザフレンドリを意識した楽器を演奏家に提供できるかどうかはコンクールでは評価されない楽器に対する姿勢や考え方、コントロールできる技術が大切なのではと思った次第です。道は長いなぁ。
コンクールは所詮コンクール。すべてではない、されどコンクール。
舌足らずですがこのくらいで。